瞳が映す景色

「やっと、顔見れた」


振り返る前、弾みで目から漏れてしまった一筋の水分。拭ったけど、気付かれてないことを願う。


ようやく処置台に横たわる白鳥さんを見下ろせば、少し頬のお肉が減った気がする。病院の照明は、不健康加減を増長させる色だ。その顔は相変わらず整っているけれど。


綺麗だなあ、と惚けるあたしは本当に……。


「……大丈夫?」


「うん。ゲンちゃんが大袈裟なだけだよ」


「嘘。……あたしも、タクシーの中いたもん。酷かった」


「もう平気さ。明日は休みだし。――うん、知ってたよ。居てくれたこと。でも動けなくて。……逃げられても嫌だったしね」


そう言う白鳥さんの表情は、してやったりというようにも見えた。そして、溢れんばかりの笑み。


乱れた前髪を直したい衝動を堪える。垂れ下がるあたしの右手の近くには、白鳥さんの顔がある。


「なんで……そんなに笑ってるの?」


なんであたしは、それを非難がましく追求するんだろう。


多分、怒られたかったんだ。


「う~ん。そうだねえ――酷いことばかり僕はしてしまっていたし、反省する意味でも、神妙な面持ちでいるべきだとは思うんだけど」


「……」


多分あたしは、そうしてから、赦されたかった?


「でも、心配する声とか聞いちゃったら駄目だね。いや、顔見れただけでそうなんだけど、僕は――」


白鳥さんは、


「――嬉しくて仕方ないんだよ」


点滴の針が刺さったままの手をそろそろと動かして、あたしのジャケットの袖を掴んだ。


点滴の管が危ないから、あたしは白鳥さんを拒まない。だからそのままなんだ。


「……馬鹿」


「うん。我ながらそうだよね。でも、なら、僕を馬鹿だと言いながら、嫌がらないのは、何故かな?」


そんなの……点滴のせいだ。

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