瞳が映す景色
状況に耐えられなくなって膝を曲げて逃げ出すと、名残惜しそうに解放される。
傍らには丸椅子があったけど、処置台に指をかけてしゃがむ。手の甲に、おでこを擦り付けながら。
ふわりと、あたしの指に白鳥さんの手が乗せられるものだから、近かった前髪を揺らしていった。
「――、ごめんね」
体温が上昇しているだろうあたしの指とは裏腹に、白鳥さんの手は、やっぱりまだ冷たくて。話さずに休ませたいけど、一瞬籠った力を感じて抗えない。
「あたしこそ、ごめんなさい。あんな勝手なことばかり」
「それはお互い様じゃない? …………、本当にごめんね。僕は、どうやっても、最低だなとは思うけど、どれくらい酷い言葉と行動で傷付けてしまったか、それがいつだったかも思い出せないんだ」
過去のことを言ってるんだろう。再会の前の、先生と生徒の頃のこと。
「思い出してほしくない」
あたしだけなんて、そんなのごめんだ。
「催眠療法とか、いってみたけど駄目で。……イタコはまだなんだけど」
「行かなくていい」
「これからで信頼してもらうっていっても、何年そうしなきゃいけないのかなあ……。勿論、信頼云々じゃなくて、これからはずっと心掛けるよ。…………けど……」
「……」
「――けど、一緒には、いてくれないのかな。こんな最低な僕とは死んでも嫌? 離れたくないけど、それで健やかでいてくれるならまだ耐えられた。……でもそうじゃなかった」
薄くなった頬を見たときの罪悪感を、きっと、白鳥さんにも味わわせてしまっている。こんなことなら言わなきゃ良かった。あなたのせいなんて。
だから、こんな言葉だけじゃ、あたしはやっぱり。
「離れていても、いなくても、お互い駄目になるくらいなら、もういっそ傍にいてくれないかな――僕の一番近くに」