瞳が映す景色
嬉しい。あたしはなんて幸福なんだろう。
でも、
足りないんだ。
そんなんじゃあたしは。
――ああ。神様。
もう限界なんです。
あたしは偶々だったって、解ってる。
そんなに、愛おしいと思ってもらえるような人間じゃない。
すぐに泣くしご飯は喉を通らなくなるし眠れないし、自分を大切に出来なくて、身動きとれなくなるばかり……。
でも誓います。
白鳥さんをあたしみたいにはしない。
守れることならあたしが守る。
一生かけて大切にするから。
だから神様。どうか、
あたしが、白鳥さんを好きだと言える権利を奪いとることを、
赦して下さい――。
「あたし……」
「――、うん」
上手く言葉を紡ぎ出せない辿々しさに、飽きもせず付き合ってくれる。
点滴の落ちるスピードに合わせたテンポで、あたしの爪を指の腹が滑っていく。もうネイルを施すことだって出来たのに、短くしていた頃に清潔さを誉められたのが記憶に残り、ずっとその状態だ。どうせなら、磨くくらいはしておけばと悔やむ。
こんなあたしを、今もずっと見守ってくれてるんだろうか。頭頂部と指先しか確認出来ないあたしを……なんて、自惚れてしまう。
「あたし……、白鳥さんに我が儘言われるの……好きなの」
くすくすと弾む声色に、また想いは募る。
「酷いなあ。僕は我が儘言った記憶ないんだけど」
「たくさん言ってる。――可愛くない態度とっちゃうし、腹も立つけど、それでも好きみたいなの。……弱いの」
「可愛くなかったことなんて、ないのになあ」
「馬鹿……」
「本当さ。いつだって、こうしたい衝動を抑えてる僕を、ちゃんと知ってね」
そう言って、白鳥さんはその手をあたしの爪先から移動させて、そっと頭を撫でてくれた。