瞳が映す景色
「だから……」
足りない部分を、どうか求めさせて。
言わなくても、わかって――。
顔を見せてと言われれば、おもうがままに操られる。
「ずるい子だね」
「……うん」
こんなあたしでもいい?
「自分で踏み切ることも出来ないから、僕に我が儘言わせるとかさ」
「……」
「本当は欲しいくせに口には出さないで、そうして僕にだけ言わせるんだ」
ごめんなさい。呟くはずの声は、掠れすぎて空気に溶けてしまった。
「僕を悪者にして、仕方ないから一緒にいてくれるとか、そんなふうにしか出来ないんだね」
「は……………………ぃ……」
「ああ、ほらまただよ?」
言葉とは裏腹にずっと触れてくれる手は優しい。こんなときでも責められることは、あたしの返事の仕方。あの日と同じお仕置きは、労りながら頬をつねるだけ。
いつでも、ずっと、変わらずに接してくれていた。
責めながら優しいなんて、器用な人。沢山たくさん、あたしはそれに翻弄される。
昔は、こんな人だとは思わなかった。大好きだった。
こんな人だと知った。けど――
「……、駄目?」
位置的に生じた上目遣いに、効果なんてないとは思う。ましてやあたしだ。溢れないまでも、目尻はもう決壊寸前を必死に保っていたのが見ていられなかったのか。
何かを一度大きく嚥下し、そうして逡巡することもなく、白鳥さんは我が儘を言ってくれた。
「少なくとも、僕はそれで救われるんだ。マイナスだらけの選択よりは、よっぽど有意義だよ。一緒にいてくれなきゃ僕は死んでしまう。三十歳のタイムリミットは案外近いんだ。僕だって幸せになってみたいんだ。誰よりも。――、だからお願いです。僕の一番近くで、元気に、幸せだって、笑っていてください」
――変わらずの気持ちが、どんな白鳥さんでも愛おしいのだと、どうか伝わりますように。