瞳が映す景色
「あ~幸せ。もう死んでもいいや、僕」
「……やだ」
「違うよ。これは比喩表現。教科書になかったっけ?」
「少なくともあたしのにはなかったし、正確な事実じゃないかもなことを持ち出さないでよ。それに、もっと有名どころあるでしょ。あたしが知らなかったらどうするの……馬鹿。回りくどい」
「ごめんね」
少し懐かしく感じてしまうテンポの、気持ちいい言葉のやりとりに肩の力が抜ける。それは白鳥さんも同じだったみたいで。
ああ、良かった。さっき願ったことは、少し成就したみたいだ。
「もっと……ま……回りくどくないのを、希望します」
「っ!? ……重く、感じない? 逃げ出さない?」
「そんなこと絶対にない」
「――うん。そっか」
くすりと微笑む白鳥さんの口角は幸せだと上がっていて、そうして、仰せのままにと告げてもらえた。
「愛してるよ――」
そこには、初めて呼んでくれた、あたしの名前も添えて。
「もうさ、嫌われてから三ヶ月? 最悪だったんだ。これはもう呪いだよね。ご飯食べられないし、鞄のショルダー部分粉砕して一日手で支えながら過ごさなきゃいけなくなるし、階段踏み外して尾てい骨打つし、テスト用紙の作成手間取るし、犬に吠えられるし黒猫は僕を横切るし……」
「……ご飯は、あたしのせいかもしれないけど、他は違うから。呪ってないし」
「えっ、そうなのっ!?」
「それに、もっとずっと前から大嫌いだったし」
その首元に顔を埋めたくなった。けど、顔の近く、空いている枕のスペースにおでこを落とす。
抗議の声なのか、けどそれは発せられることなく、白鳥さんの息遣いがあたしの鼓膜を震わせていった。
点滴はもう終わる。
タイムリミットは、もうすぐだ。
「でもね……」
「うん」
「でも、ずっと大好きだったの」
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②ー12・教科書には載ってなかった。
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