瞳が映す景色
――もっと、ぎこちなくなってしまうんじゃないかという危惧は、驚くくらい以前と変わらずで、気付けば消滅していて。
変わらないで、と言われた。そのままでいいと。
その言葉がなくても、あたしはきっとこうで。
それは、ひとえに相手の努力の賜物であることは心得ている。
あたしなんかがこうも落ち着いてしまうのは違うんじゃないかとも思ったりするけど、それは片寄りすぎた思考だったりもするんだろう。
それに、落ち着いてばかりでもない。
さっきみたいな、白鳥さんを見る誰かの視線や、それが女子高生だったりすると、まだ軋む感情は燻り続けていて……。でも、それからはもう逃げては駄目なんだ。
頭を撫でてくれたり、見つめられたり、他にもたくさん、平常心でいられないときもある。
それらが、悟られたい気持ちもある。けど、気付かないでとも。自分の感情の露呈レベルに感謝もする。
「どうしたの?」
「ううん。どうもしない」
こうしたとき、もっと気の利いた受け答えが出来たらと悔やんではみるものの、白鳥さんは変わらずどんとこいなものだから、困る。もっとスパルタ式でいいかもしれない。あたしは、すぐに胡座をかいてしまうだろうから。
「これね」
白鳥さんが、手にしたままの小さなプリンの入った箱に目をやる。ありふれたその箱の側面には、不相応な快気祝いの熨斗紙が張り付けてあって。
「うん」
「快気祝いの熨斗、ゲンちゃんに書いてもらいに行ってきました~」
「……ゲンちゃんも迷惑だっただろうね。またデートの邪魔させちゃったら可哀想。ていうかゲンちゃんて達筆っ」
「そうでしょう。――大丈夫だよ。向こうにもプリン置いてきて、居なかった藁科にメールしておいた。食べに行きなさいって。感謝されてるかも」