瞳が映す景色
眼前の女生徒はオレの指摘がショックだったのか、少し、沈んでいるようにも見えて。
「悪かった。オレの言うことなんか気にするな。 藁科は良い子だから、そんな言葉のひとつでマイナスになんかならないぞー。……ちなみに、キャバクラの件は秘密な? これでも先生なもので」
フォローと口止めを約束しながら、腹の中では反省の塊が重くのしかかる。やる気を削ぐことはしたくないと、さっき誓ったのにもうこのざま……。
「じゃあ、ふたりだけの秘密、ですよ?」
「了解」
気にしていたのはオレだけで、藁科の機嫌はもうとっくに直っていた。
くすくすと肩を弾ませる様は大変ご機嫌麗しゅうで。少女の心はよく分からん。
何故だか嬉しそうにほくそ笑む藁科は、自分のノルマである看板の名前を書き始めた。するすると筆を走らせる所作は姿勢が良く、書道の段を取得しているようにも見えて。
オレも作業に専念する。
おれたちふたりの書のうちどちらかが、来月の文化祭、クラス運営の和風カフェの看板になるんだそうだ。