瞳が映す景色
そんな幸せな他愛ない会話をしていると、お互いの家はもうすぐそこで。
別れ難い気持ちを、悟られたいのかそうでないのか、また堂々巡りをしてしまっていた。
「……」
言葉が軽快に飛び出さなくなるのはお互いで、同じなのかと自惚れてしまう。でも真意は藪の中。
訊いたら、喜んで答えてくれるかもしれないけど。
「――プリン。二つしか入ってないんだ」
「うん」
「ご家族分もないし、僕も食べたいから、だから、僕の家でお茶でもしていかない?」
「っ」
「怖くないよ~、紳士でいるよ~。だって、あそこに鬼の門番みたいなお兄さんもいることだしさ」
視界に入ってきた自宅兼店舗では、少し前に閉店した店舗部分前に兄と佳奈ちゃんがいて、もう少し近付くと、兄の手にはストップウォッチが握られているのが見えた。
「お兄ちゃん……?」
兄夫婦の面白光景に立ち止まっていると、隣から白鳥さんが囁く。
「一時間だけ許可もらったんだ。心証悪くしたくないしね。でも、僕の目は常に不埒すぎるらしくて、それだけしか許してもらえなくて。――でもあれだよね。一時間あれば、そこそこ何でも出来ちゃうのに」
兄たちには、もう白鳥さんとのことは知られている。
けどこんな、身内にストップウォッチ片手に見送られながらなんて……風邪で倒れた配達のときでさえあんなに恥ずかしかったのに。
白鳥さんの言葉にも引っ掛かって身動きをとれない。
不安しながら、期待もする浅はかな自分に呆れる。
「来てほしいな」
兄いわく不埒な目で見つめられ、強請るみたいに問うてくるのは意図的で。
それに弱いあたしは、また白鳥さんのせいにする。
瞬間、兄の手の中のストップウォッチが押される音がこちらにも響いた。