瞳が映す景色

――……


「怒ってる?」


二度目となる白鳥邸への訪問。エレベーター内で無言だったあたしに、僅かに申し訳なさそうに白鳥さんは訊ねてくる。


「べっ、別に……っ、ただ、恥ずかしすぎる。色々と」


「そう?」


白鳥さんは悔しいかな通常仕様で。それは心臓の鋼鉄具合なのか、経験値の差か。


なんとなく理由がストンと落ちてこず、僅かに睨んで見上げても、それは柔らかな空気砲でしかなかったみたいだ。


「白鳥さんムカつく」


「え~、なんでさ~」


「あたしばっかどうしようもなくなってるからっ」


そうこうしてる間に白鳥さん宅の前で、促されるままに先にお邪魔する。


「ほらほら、僕が入れないじゃないかぁ」


押されながらもう少し進むと、小さな玄関内、背後では白鳥さんがチェーンまでしっかり施錠する音が響いた。


「コーヒーでいいかな? 他に欲しいものあったら買ってくるけど」


「お構い無くです」


「……」


つむじを、ぐりぐりと指で潰されまた抗議されてしまった。距離をとるとか、そういう意味合いではないのに。少し、それが怖いのだと呟かれたのは、一昨日のこと。


「白鳥さんと一緒のがいい。気は、使わないでね」


「うん――」


「白鳥さんちなんだから、あたしばっかり構わないで、好きにくつろいでくれなきゃ嫌だからね」


「ありがとう」


背後では、深めの息が吐かれた。




そうして、


「っ!?」


後頭部に人肌を感じる。


「じゃあ、好きにするよ」


そこに感じたのは白鳥さんのおでこで、位置的に首の後ろに熱い呼吸が当たる。


もう切り刻むことはなくなったけど、そこまで長くもないあたしのボブの髪は、白鳥さんのしてくることに無抵抗で。


晒されたのは、皮膚の部分。

< 401 / 408 >

この作品をシェア

pagetop