瞳が映す景色

鍵とプリンの箱を下駄箱に置く手が視界の端に映る。


自由になった両の腕が伸びてきて、白鳥さんは背後から、動かないままあたしの身体を包んだ。


「また痩せてないか、チェック中」


「っ、一週間かそこらで変わんないでしょっ」


合わさる体温が気持ちよくて、無意識に、あたしの前に回ってきていた腕に指を添えてしまった。




な……にを、あたしたちはやっているんだろう。玄関で、靴も脱がずに、立ち竦んだまま。


「怒んないの?」


しばらくのあと、その体勢のままで、白鳥さんがそっと訊ねてきた。


「怒ることなの?」


「だって、怖いことはしないって誘ったから」


「怖く、ないよ。――じゃあ、白鳥さんはなんで離してくれないの?」


「だって、ずっとこうしたかったし、無抵抗に無防備に信頼しきってくれる姿に感動で、離れらんないよ。……どうしようもなくなってるのは、きっと僕のほうだ」


もう、ずっとこのままでもいいなんて思ってしまうあたしは、果たして大馬鹿なのか。


嬉しいんだ。幸せで、嫌なことなんか何ひとつないのが悪い。


「さっき、外でね」


「うん」


「もうすぐ家に着いちゃうってとき、別れ難かった。……いつもなの」

「僕もだよ」


「だから、もう少しこうしててほしい」


瞬間、さっきまでとは比べ物にならない力で強く包まれる。


「もっと、してほしいこと言ってよ。いつも僕に我が儘させるんじゃなくて」


「っ」


強い力とその我が儘は、あたしが言わせてしまってることで。改めて、白鳥さんにかかる負担は相当多くて、頼ってしまってると反省した。


白鳥さんの我が儘は嫌いじゃない。もっとしてくれても受け入れてしまうかもしれない。


あたしがそれを嬉しいみたいに、白鳥さんもそう思ってくれてるなら、


言ってみてもいいかもしれない。

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