瞳が映す景色
「コーヒーじゃなくて、牛乳があればカフェオレがいい。砂糖もほしい」
「それが我が儘?」
「……じゃあ、っ、くすぐったいから、ちょっと、どうにかしてほしい」
さっきから首やら耳やら、もうどこもかしこも白鳥さんの息がかかっている感覚に陥り、膝の力が抜けそうだ。嫌ではないときの伝えかたとは、どのようなものなのか。
「ヤダ。まだこうしてたい。もう少しって言われたし」
「中入ってから……っ」
「それだと止まらなくなるから、今ここでこうしてるんだよ?」
「っ」
こうも軽快に色々繰り出す白鳥さんは、頭の回転がいいんだと感心する。
多分、あたしだって思ってることはたくさんあって。でも、満たされてしまうと浮かぶものも浮かばない。――負担なき我が儘というのは、案外難しいんだな。
ずっと、こうしているのもいい。
けど時間なんてあっという間にきっと過ぎてしまうから、あたしはもっと、白鳥さんと色々なことをしたいんだ。知りたいし、考えたい。
それなりに、過ごした月日はある。理解出来ていることも。会話も見てきた表情もたくさん。
けど、肝心なことは核心に触れず、何も知らないままだったのは痛感してる。そういうものは、まだまだあるんだ。
だから、もっと。教えて欲しい。
「せっかく買ってきてくれたプリン、食べたい」
「大好物だもんね。食べよう食べよう」
「だったら……っ」
「でも、う~ん、まだ足りないな。頑張って」
「ちゃんと、話だってしたいよ」
「それは僕も。――ねえ、もっと我が儘言ってよ。お願いでも頼み事でも命令でもいいし。じゃなきゃこのままだからね」
あたしに回る腕は、言いながらまた力が籠った。