瞳が映す景色
ふいに、白鳥さんのポケットからスマホの着信音が鳴る。
「出ないとっ」
「メールだし無視でいいよ」
それには反対しなかったけど、あることを思い出した。それを最後の我が儘、というか、お願いとすることに決める。
もう、これで離してくれなかったらそのままでいいや。嫌じゃないんだし。
流されやすいのかな、やっぱりあたしは――それはいけないことだと肝に命じながら、お願いを。
「白鳥さんのスマホの待受画面の写真……消去してね」
そうしてほしいと言っていたのはあたしなのに、急に解放された身体が寒くて寂しくなったのは、秘密で言えない。
お願いを口にした途端、白鳥さんはあたしから身体全部を離して慌てだした。どうやら、先週ゲンちゃんが見てしまったときの画面と同じままらしい。
「ね、消してね?」
「どっ、どうして知ってるのっ!?」
振り返ると、さっきまでの、あたしを翻弄していた白鳥さんはどこへやら、その顔は青ざめたあとに赤くなり、大変そう。
また、知らない彼を見つける。普段からふざけるみたいに余裕ある態度なものだから、慌てて、まるで追い詰められた犯人みたいな様子が新鮮で、可愛くもあり。
あたしはそれを堪能する。
「ゲンちゃんから。偶然見つけて通報してくれた」
「ああっ、ゲンちゃんの馬鹿野郎っ」
「どうせ変な顔とか格好だろうから消してね」
「可愛いからいいじゃないかっ」
「可愛くないし、そもそも隠し撮りなんか嫌」
「じゃあ隠さないから撮らせてっ」
「写真苦手だから嫌」
「だろっ? 前そう言ってたから最終手段だったんだよ!!」
そう言って、白鳥さんは部屋の中に逃げ込んでしまう。
あたしも、それを追いかけてお邪魔させてもらった。