瞳が映す景色
逃げるように室内に走り、白鳥さんはスマホを寝室へと投げ込んでしまった。そうして、境界のドアをすかさず閉める。
「断固拒否するっ」
「……」
正直、ここまでの抵抗をされるのは意外だった。愛犬、飼ったことはないけど、それがお気に入りのおもちゃを盗られまいとしてるみたいな。
ああ。またひとつ知れたと心が震えるあたしは大馬鹿だ。
もう、許される関係になってから、初めて、あたしから白鳥さんに手を伸ばす。
「一時間、こんなことで終わらせたくないよ?」
「っ、それは僕もだけど……」
あたしの指が触れただけで、こんな表情をしてくれるんだ。誰にも見せたくないし教えない。あたしだけの秘密のこと。
もう一歩近付いて見上げてみると、またその喉は何かを大きく嚥下した。
視線が絶えず合わさるものだから、恥ずかしくなって顔を伏せると、集まってきていた血流が余計に脳に溜まる気がして、これは大変かもしれない。
「ひとまず保留にするから、お茶のご馳走お願いします。緊張して喉渇いちゃった。手伝い、するから」
「――っ、しなくていいから待ってて」
寝室へのドアを絶対開けないことをあたしに頷かせると、白鳥さんは急いで準備に向かってしまった。
一人暮らしの部屋なんて、走らなくても目的地はすぐなのに。牛乳がないからって冷蔵庫を開けたまま項垂れなくてもいいのに。
その行動たちが、あたしだからしてくれていることだと、これは舞い上がらなければ失礼かもしれないと、正座しながら自惚れた。
目の前のローテーブルにプリンとコーヒーが置かれる。
僅かに隙間を空けて隣に座る白鳥さんも、同じものを自分に運んでいた。
「ありがとう。では、いただきます」
両手を合わせて唱えたあとのプリンは、とても甘くて蕩ける食感だった。