瞳が映す景色
一時間のうち、最初の十分は玄関で使ってしまった。
五分は、寝室へのドアの前。
三十分は、コーヒーとプリンを嗜みながらの、盗撮問題への追及。
「……どうしても消さないと駄目?」
「どうしても」
「僕の残りのプリン全部あげるからっ」
「駄目。手つかずだったら考えたかもしれないけどね。残念。あたしももっと食べたかったのに」
「……わかった」
今、目の前で白鳥さんのスマホから待受画像を消去してもらう。変な顔をしていたから、内容は言いたくない。しかし、いつの間に撮られたのか……。
腹いせにか、奪わないのに、プリンは白鳥さんの背後に隠されてしまった。
何故かこちらを見据えられる。
「な、に……」
「じゃあ、もう今日プリンは食べられないからね」
「もう食べちゃったし。――ていうか、今日のとか、あたし毎日毎日食べてるわけないから」
「口の端に食べ残しがあるけど?」
「嘘っ」
とんでもない失態をやらかしてしまった。いつもそうじゃないのに、なんで今日に限って。
ハンカチを鞄からっ、いやまずは封印っ。混乱したのちに慌てて口元を隠そうとした腕は、
「駄目だよ?」
素早く、白鳥さんによって阻止されてしまった。
「……っ」
「残りは全部僕のものだって、言ったとこだよね――」
捕まえられた腕は白鳥さんのほうへと引かれ、自然に身体ごとそちらに近付く。
「ぁ……っ」
そうして、宣言通り、残りのプリンは白鳥さんに全部食べられてしまった。
「――、ごちそうさま。これが一番美味しかった」
最後の五分は、今日のお別れを名残惜しむ。
その前の十分は、玄関のときよりもう少し、怖くはないけど、甘いこと。
~『②白鳥先生のこと』~