瞳が映す景色
「履き慣れないもんは地獄だろ。ペタンコな靴買ってやるから帰れ」
三メートルほど距離の開いていた『同じ道、同じ方向を歩く他人の図』はこうして崩れた。……今日はどうにも上手くいかん。誕生日の恩恵とかはやはりありはしない。
「心配してくれてるんですね。嬉しい」
「心配じゃなくて指摘だっ」
あんなヒールを履きこなされても恐ろしいが、もう……歩く姿が無様で、限界だ。
一言交わしただけで、またすぐに距離の開いた藁科を振り返る。駅が近くなり人通りが増した周囲の状況だからか、目が合うとニコリとはするものの、近寄ってはこない。
なんとまあ、間違いだらけなことだ。
ちょうど? なのかはもう追求はやめよう。進行方向には映画館があった。駅の反対側にシネコンがオープンし、めっきり客足が遠のいてしまった、昔ながらの映画館。オレはこっちの方が好みなんだが。
それに、こっちの方が安全度が高いか。
どうせ……尾行はされるんだろう。足がもっと酷いことになっても。