瞳が映す景色

急遽入った映画館の上映作品は、ずいぶん昔の恋愛映画だった。密かに愛された作品だったのか、タイトルでさえ心当たりはなかったが、当時を懐かしむ様子の年配の人たちがちらほら。


オレは真ん中より後方、通路を挟んで左側の、密度ゼロの場所に座った。飲み物をホルダーに挿し落ち着くと、空腹感が沸いてきた。そういえばまだ何も食べていなかった。いや、機会を奪われたんだが。


売店へと立ち上がろうとした時、オレの座席、飲み物とは反対のホルダーにポップコーンのカップが挿し込まれた。


「いらなかったら私が食べますから」


やっぱり後を追ってきた藁科が、オレにしか響かない声で囁き、傍らに立っていた。


……自分の分も買ってあるだろ。


そして、藁科は他人ようにオレの前を通り、三つ隣の席に座る。


ポップコーンと花束の料金を頭の中で計算しているうちに館内は暗くなり、映画が始まってしまった。

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