瞳が映す景色
強情さに苛立ち、やっと我を取り戻す。
「始まってもいない」
否定の言葉など藁科はまるで気にしないかれまた苛立つ。
「でも、今日は調子乗りました。すみません。違反だなっていうのは、分かってました」
「不利益になることはしないって言ってたもんな。けど、今回が違反で、今までが出来ていたとか、オレは思ってないぞ」
「誕生日、お祝いしたいって思ったら、身体動いてて……」
くるくると変わる表情のスピードに追いつけない。そこで泣きそうになるのは……卑怯だろう。 必死に堪えてはいるようだが、頬を突けば溢れるだろ、その目に溜まった涙。
「……もういい。ここまで一緒にいたオレもオレだ。不本意だが秘密ひとつ追加だ。あと、服だが……」
「後日返金します。レシートを……」
「いや、いいから。捨ててくれてもいいから、忘れてくれるのが一番だな。家帰って、服が違う妹に慌てるお姉さまがここに乗り込んでこないようにだけは頼む」
「……はい」
「どうせならいつもみたいに笑っとけ」
「――、はいっ!」
そう。いつもみたいにだ。