瞳が映す景色
――――
――
「終わったか?」
「はいっ!」
「……」
しばらくの時間を使い完成した藁科が披露してくれた書は、個性溢れる豊かな作品だった。
なるほど。ここまでのはなかなか。皆の言うとおり、味がある。
「やっぱり……笑ってますね? 当然ですーっ。先生方で一番達筆な人と、ド下手な私とじゃ雲泥の差。……片山先生、名前は『厳道』だし、怪しい書道家みたいです」
……名前だけ立派でオレだって嫌だよ。
「乾かすから、明日の朝までここに置いておけ」
「はーい」
むくれた藁科と一緒に準備室を出ると、ふいにさっき流してしまった会話が脳内リプレイされる。そういえばさっき、藁科はオレのこと『先生』って言ったよな――思い出し、飲み込みの早さに感心をした。
オレにはもうない、いや、あったかどうかも怪しい高度の吸収率。藁科は、もし、どす黒い影が傍にあったとしたら、その全てさえも効率良く吸い込んでいってしまうのだろうか。なんてことが、ふと頭をよぎった。
真っ直ぐな生徒を見ていると、どうかナニモノにも負けないようにいてくれと願う。そう思えた時、僅かだが教師の要素が自分にもあるのだと、安心できる。