瞳が映す景色
「パンフレット……」
藁科がふいに呟く。
「なんだ?」
「私が買ったのが水浸しになっちゃったの知ってて、プレゼントしてくれたのかなぁ、って。もう一度、映画館も行ってくれたんですね」
手に取ったパンフレットを細くて小さな指でそっとなぞりながら、そんなことを言う。乙女の思考回路はとても幸せに出来ているらしく、返金がプレゼントへと変換されるらしい。
「もう読んだんで処分に困っただけだ」
「はーい」
含んだ返事に腹は立つが反論はしない。
……そんなこと……本当のことなど誰にも言わねえ。
たとえば、時間の潰し方に迷っていたら、いつの間にか駅前にいて、ボロボロになった臭い付きパンフレットを名残惜しく捨てていく藁科を思い出し、映画館へ行ったことなど。
たとえ、相手が藁科じゃなかったとしても、オレにもそれくらいの優しさはあるが、別に言うことじゃない。
藁科の解釈が面倒だといけないから、オレは口をつむぐ。
まあ、所詮全て『たとえ』の話。