瞳が映す景色
なるべく早く帰りたかったオレは、下戸の白鳥 先生にビールを呑ませ続け、会の開始から一時間半ほどで潰れさせた。もちろん、医者に診せるレベルまでは呑ませていない。
目論み通り送っていくという口実を作り、オレは白鳥先生を手伝い立ち上がった。職場の呑み会など、結論、最後までいる必要はない。出席の事実だけがあればいいんだ。
もうひとつの名目の会の主役、退職の女性教員に祝いの言葉を拙く告げ、会場から逃げ出した。
「――ゲンちゃん、僕を利用したね?」
まだそこは暖かな店内、もう宴会中の姿も声も届かなくなった頃、軽く耳を引っ張られた。
「……手伝うって、言ったじゃないすか」
「僕の活躍を待てないなんてせっかちだね」
「そうですね……」
外に出た途端、白鳥先生はオレの補助から離れ、 意識足取りに力を取り戻した。どうやら、演技も入っていただろう店内での行動は、助けてくれたのかなどとは訊けるはずもなく。そうしてオレはずっと責められ続ける。けど、そこに本気の怒りはなく。
白鳥先生なその目は――実家で犬を飼い始めた母親が、しょうがないわねぇと言いながら、愛犬と戯れる時のそれだと感じてしまい、もう逃げ出したくなった。