瞳が映す景色
誰に対してもそんなふうに優しい白鳥先生は、加えて見た目もいい。さらに加えて仕事も有能なもんだからもてる。
「元気なら戻りますか? 本気で潰れても、送っていきたそうな人いたから大丈夫ですよ」
「やだね。あとひと口呑んだら吐いちゃうし、面倒だから行きたくない。ゲンちゃんと帰るのがいいや。友達とが一番」
……。
恥ずかしいことを、白鳥先生は正面きって言ってくることが時折ある。
別に、それが嫌とかじゃない。双方いい歳で、尊敬も密かにしている先輩に、『僕たち友達』みたいなことを言われても返答に困るだけだ。素直に嬉しい気持ちを漏らしてみたら、それはきっと優しい顔をされるんだろうが、それも困る。
この時期にしては運がよく、予約なしでタクシーを呼び止めることが出来た。白鳥先生を先に乗せ、同乗しようとしたら手で制される。
「ひとりで大丈夫だよ」
「……、はい。今日は、ありがとうございました」
オレが動かなくても、多分助けてくれただろう人に無理をさせてしまったことを、酔って苦しそうな顔を確認して後悔した。
最後にと、タクシーの窓越しに白鳥先生が一言を授けてくれる。
「暗い顔するな。ゲンちゃんが気落ちするようなこと、何もないじゃないか」
こんな絶妙な優しさ。オレになんて使わず、他にもばら撒かず、たったひとりに向ければいいのに。そうしたら負担は少ない。
オレがいることで疲れさせていたら、それはちょっと悲しいと思った。
「……、ありがとうございます」