瞳が映す景色
静かに? わざとらしく音を立てて? どう階段を上ろうか――知らず考えていたのに気付き、馬鹿らしくなっていつも通りに努めた。
「っ!」
足音に、長いポニーテールがオレを見つけて跳ねたのを見てしまったのはなんとなく失敗だったと、心で舌打ちする。
「……成績表でも貰い忘れたのか?」
「あっ……えっと……」
「風邪ひくから入れよ」
「っ、いいんですかっ?」
「何が? 用がないなら帰って構わないけど」
いつもなら、こんな態度はとらない。
少し、藁科は怯えている気がした。
当然か。
白鳥先生に整えてもらった心は、帰り道と階段の上り方なんて意味不明なことで使い果たしてしまっていた。
今日はもう、何もかもがどうでもよかった。