瞳が映す景色

部屋に入り暖房をつける。電気も同時に。ひとつ暗い照明になっていたが、直すこともなくそのままベッドに腰掛けた。


「――で、何? またオレを困らせに来た?」


今のオレは冷たくて痛くて、きっと藁科は傷ついているんだろう。……なんて、いつものオレは棚上げかよ。


「困らない、なんて言えない……ごめんなさい。……片山先生、今日様子がおかしかったから気になって、――来ました」


誕生日の時のような言い訳はせず、藁科は真っ直ぐにオレを見て、そう言った。


「そう。どんなふうに?」


なのに、オレはなんて……。


「眉間のしわ。ずっと、消えなかったから」


藁科はそれ以上何も言わないまま勝手にキッチンに立ち、下げていた袋から何やら取り出し、何やら作業に取り掛かる。


部屋中に甘い匂いが漂い始め、オレはぼうっと、その様子をただただ眺めていた。

< 62 / 408 >

この作品をシェア

pagetop