瞳が映す景色
――……
「ありがとうございました。……白鳥先生」
生徒指導室を離れ、ふたりで廊下を歩く。オレはうなだれたまま、隣の白鳥先生に礼をした。
「だって、本当に見ちゃってたからね。僕はありのままを主任に話しただけ。――あの子にも話をして、ちゃんと納得させた。告白のことも報告して構わないって。だから大丈夫」
「……」
立ち聞きに、慧眼、ですか。なんでこの人はこんなにも……。
「実はね、ゲンちゃん。僕も同じようなこと経験済み」
「オレの、今日みたいなことですか?」
「そう。数ある出来事の中の最初のこと。なんか告白らしきものされちゃって、断ったら、僕は教頭に逃げ込まれた。校長はあの日いなかったんだよね~」
「それは……」
オレより辛い。今回は学年主任が自分のところで止めてくれたから、他は知らないままだ。いつかの過去を思い出しているのか、白鳥先生の目は廊下の突き当たりの向こうを見ている気がした。
「僕が軽そうだからか、皆瞬く間に向こうを信じてね。会議にもなっちゃって吊るし上げ? ――そんな中、助けて信じてくれたのが高井先生」
「学年主任が」
ずっと、あの主任は心強い存在だったのだと敬服した。
「あれこれあったけど一件落着。それからは、もう少しスキルとかを外に出すようにした。僕がしちゃうと嫌味が増すから控えてたけど、必要だなって痛感したしね。欧米式だよ、今は」
「顔がいいと、羨ましくないこともあるんですね」
「荷物背負うこともあるよ~。でもこの職辞めたくないしね。あんなトラブルひとつで負けてやんないよ」
日常茶飯事だったとしても、ここまで落ち着くのは容易なことじゃなかった、きっと。軟派なのが更生して現在の白鳥先生……それはないだろう。なら、周囲の誤解と戦いながら、信頼を勝ち得てきた。
それは、とてもとても――なんて逞しい、憧れる姿だろうか。