瞳が映す景色
「ふふっ。分かりました。白鳥先生が人気なの、 少し納得です。聞き上手だし、自分にだけ優しいって思わせるの上手。……私、もう帰ります。 さようなら」
合わせる顔など持ち合わせておらず、その言葉を聞くなりオレは隣の教室へ逃げ込んだ。
入れ違いに、藁科が廊下を踏みしめる音が響いた。そして遠ざかっていく。きっともう、最後であろうその音を、藁科を感じられる全てに、オレは耳をすませた。最後まで。
「ゲンちゃんは、嫌いだったのか、なかったのか、はたまた全く別ものか。……いったい、何処にどんな気持ちがあったのかな?」
千里眼も兼ね備えていたらしい白鳥先生は、オレが隠れる教室をひと覗き。けど、こっちを見ることはなく、独り言のように呟いていった。
オレ以外、人がいなくなった校舎。静謐すぎる空気と凍える床が、バラバラだったオレの心をひとつに固めてくれる。
……違うんだ。
あの時怒鳴ってしまったのは、そんなんじゃなかった。藁科が言ってくれたこと、オレが先生でよかったと、その言葉を大切にしたくて。そう言ってくれたオレでありたくて。
この学校の、自分の居場所を守るのに必死だった。……他のことにまで気が回らなかった。
一番、気にかけなければいけなかったのに。