あの子になりたい。
彼が好きなあの子。
ピンクのリボンがよく似合う。
お花のワンピースがよく似合う。
長い綺麗な黒髪と、
あの二重の大きな瞳。
あの瞳に写る彼はきっと、
私の知らない彼だろう。
あの子になりたい。
あの子の瞳で彼を見たい。
どんな風に笑って、
どんな言葉をかけて、
どんな愛をくれるのだろうか。
そんなの彼の目にも止まらない私には
想像すら出来ない。
好きな人の好きな人。
その子はとても可愛くて、
「あの、ハンカチ、落ちましたよ?」
「あ…ありがとう」
「綺麗ハンカチですね」
「か、借り物なんです」
とても優しい笑顔をしている。
ああ、かなわない。
そんなのは最初から分かっていた。
それでも、彼がすきだった。
初めて彼に会ったとき、
「脚、大丈夫ですか??」
派手に転んだ私に声をかけてくれた。
「血が出てますね、これ使ってください」
そして傷口にハンカチを当ててくれた。
「絆創膏でもあれば良かったんですけど」
残念そうな顔をする彼に
私はただただ首を振った。
顔が熱かった。
多分、一目惚れだった。
でも、彼は少し先を歩く女性を見つけると、
それじゃ、と笑顔を残して女性を追った。
あの子だった。
それから私の片想いと失恋が始まった。
あの子になりたい。
そう願ってもなれないことは知っている。
それにあの子になっても
私のことを、
私自身を愛してくれないと意味がないことも
分かっている。
だから、せめて。
このハンカチだけは、
私に下さい。
あなたが見せてくれた
あの笑顔を忘れないために。