三周年記念小説
第三話∫一時の平穏
〈文也視点〉

恵くんの話を聞いて
苦笑いしてしまうような
内容だったけど、
わからなくもない。

普通の男女のカップルだって
悩むことなんでよくある。

ましてや、二人は
兄弟で男同士なんだから
余計に悩んだに
違いないだろうけど、
亮くんの
言う通り、相談して
くれればよかったと思う。

俺たちは家族なんだから。

取りあえず、夕飯を
温め直して
皆で食べるとしようかな。

『胡桃ちゃん、
ご飯、温め直そう』

テーブルに並べた皿を
手分けして持ち、
キッチンへ向かう。

『そうだね、
恵ちゃんのせいで
すっかり冷めちゃったからね』

言葉は嫌味っぽいけど、
笑っているから
本気でそう思ってる
わけじゃないことは
わかってる。

「俺も手伝うよ」

恵くんが残りの皿を
持ってキッチンに来た。

その様子を亮くんは
座ったまま見ているだけだ。

温め直した夕飯を
四人で食べて
今度は俺たち三人の
五年間の話をした。

恵くんがいなくなって
直ぐの亮くんには
俺も胡桃ちゃんも
手の付けようがなかった。

本当に抜け殻のようで
{茫然自失}、{意気消沈}
ってな感じでだった。

胡桃ちゃんと二人で
何とか励まし、恵くんは
きっと大丈夫だからと
何度も何度も言った。

その甲斐あって、
一年後には捜す気力が
出て来たみたいでよかった。

「本当にごめん……」

俺たちの話を聴いて
恵くんが俯いた。

『私たちはいいのよ
こうやって、見つけて
帰って来てくれたんだし
ただ、あの頃の亮ちゃんは
本当に見てるこっちが
心配になるほどだったのよ』

だからね、
と胡桃ちゃんは続ける。

『此処はいいから
一秒でも亮ちゃんの
傍に居てあげて』
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