三周年記念小説
その時、目眩がした。

『亮くん!!』

崩れ落ちる前に
文也が支えてくれたから
なんとか床に膝を
着くことはなかったが
立っているのも
しんどくなってきた。

「悪いな文也」

『いいんですよ
あの、車に戻ってて下さい』

嬉しい申し出だが
俺は首を横に振った。

話しが進めば、
絶対に恵太の恋人が
誰なのかとか
下手したら連れて来いと
言われかねない。

なら、此処で
暴露するのもいいかと思った。

視線だけで、俺の意図を
汲んでくれた二人は
苦笑いだが、了承の意を
示してくれた。

『ののさんといいましたっけ?』

文也が彼女に話しかける。

「ええ、車屋ののといいます」

恵太の苗字は
名乗ってないらしい。

『恵くんの
当時の恋人が
誰だか知りたいですか?』

その言葉に恵太は
文也が何を
言おうとしるか気付いらしい。

「おい、文也」

慌てた声を出す
恵太を視線だけで
威圧して話しを進める。

『恵くんの
恋人だったのは
此処に居る実兄の
亮くんなんですよ』

彼女はさっきの
俺のように硬直した。

「何で言ったんだよ」

今度は恵太が文也を
殴りそうな勢いで
こっちに近づいてくるが
胡桃が俺たちの前に
立ち塞がった。

『亮ちゃんが文君に頼んだのよ』

胡桃の言葉に
今日初めて恵太が
俺と目を合わせた。

態とニッコリ笑えば
それだけで通じる。

「アニキ、無理して笑うなよ」

あぁ、そういうところは
ちゃんと気付くんだな。

嬉しいより切なかった……

この場で恥も外聞もなく
泣き叫んで仕舞いたかったのを
必死で耐えていたはずだったが
突然入って来た、
幼稚園生くらいの女の子を見て
俺は逃げ出すように
玄関へ走った。

『亮ちゃん!!』

胡桃の叫ぶ声が聞こえたけど
止まることはなかった。
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