人形
それなのに涼馬くんは。
変わっているのね。
いくらお父様に私が1番呼ばれたい呼び方で呼べと言っても、聞く人なんていないと思うわ。
でも、彼は違った。
お父様の言ったことを実行した。
そして由真と私を呼んでくれる。
・・・嬉しいな。
「あら、由真ちゃん」
目の前の階段から降りてくる女の人。
私のお母様・泉優里奈(ゆりな)だ。
裾がふんわりとした淡いピンク色のワンピースに身を包み、綺麗な胸元まである黒髪をなびかせる姿は、2人の子どもの母親という感じが全くしない。
パッと見十代だけど、ちゃんとした40歳。
少し危なっかしいけど、凄く優しい。
そんなお母様は、手に大きな段ボールを抱えている。
「お母様!危ないわよ?」
「大丈夫よ由真ちゃん。
由真ちゃんは心配性ね。
わたしはそこまでドジじゃないわッ―――って、きゃあ!!」
言っている傍から、お母様は階段を踏み外した。