人形



「いるよ。
どうぞ、中に入って」


「お邪魔しまーす」


 翠子が一時期不登校になった時に入ったきりだ。


 その後は、入ったことない。


 翠子、おしとやかなんだけど、整理整頓が苦手なタイプ。


 部屋がいつも汚いらしくて、あんまり人を家に呼ばない。



「お兄ちゃん、部屋にいるから」



 階段を上ってすぐ見える部屋の扉に、【みどりのへや】と書かれたプレートが下げられていた。



「お兄ちゃーん?」



 ノックもせずに、翠子は扉を開けた。



 緑さんは、ベッドの上で上半身何故か裸のまま、漫画本を読んでいた。



「おー翠子。何の用だー?」


 私に全く気が付いていない緑さんは、呑気に返事をした。


 少し眠そうな声をしている。



「お、お、お、お兄ちゃん!!!!」



 顔を少しだけ真っ赤にした翠子が、震えながら叫んだ。



「どーしたぁ翠子」



 振り向いた緑さんの目が、私を映した。






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