人形
「1回きりだけどね。
是非お礼を言いたいからって、わざわざお仕事を休んで来てくれたんだ」
お礼を言いたい?
「由真、翠子ちゃんが不登校になった時、何度も翠子ちゃんを励ましたんだって?」
「励ましたって、大げさだよ。
家に1度行って、その後はメールとか電話とかで学校来るよう言っただけだよ?」
「由真、それが1番良いことなんだよ。
支えてくれる人が1人でもいるだけで、人は強くなれるんだよ?」
「そうなの・・・?」
「翠子ちゃんと緑くんが、由真に凄く感謝しているんだ。
それを聞いたご両親が、恥ずかしくて言えない2人の代わりにお見えになったんだ。
それを聞いた僕ら、凄く嬉しかったよ。
少し抜けていて我が儘で、それなのに言えない寂しがり屋で不器用な由真が、人の役に立ったと思ったよ」
あの~、お父様?
私のこと、けなしすぎでは?
まぁ、その通りなんですけど。否定はしませんけど。
「涼馬くんのご両親を亡くならせてしまったのは、僕らにも責任はある。
僕は残された涼馬くんへのせめてもの償いとして、天涯孤独となった涼馬くんを、涼太(すずた)の代わりに、立派な人になってもらおうと、努力した」
涼太さん?
誰だ・・・その人は。
「もしかして由真、涼太のこと知らない?」
「知らないけど・・・」