人形
「「涼馬!」」
焦ったように屋上へ入ってきたのは、父さんと母さん。
「結衣子・・・。
あなた、何しているのよ!」
「やだなぁお姉ちゃん。
涼馬くんを誘拐しただけだよぉ?
・・・頭良いのに、そんなこともわからないの?」
「涼馬を返してもらおうか、結衣子さん」
「あなたの目的は何?
涼馬は何も悪くないでしょ?
何か不満があるのなら、わたしに言いなさいよ!」
「あは。
お義兄(にい)さんもお姉ちゃんも焦っているねぇ。
アタシ、その表情が見たかったの。
もっともっと見せてよぉ!
もっともっともっと苦しんでよぉ!!
もっともっともっともっと焦ってよぉ!!!」
キャハハハハと異様に高い笑い声が、響く。
暫(しばら)く両親は叔母さんを説得させようと色々言うが、叔母さんはただ笑っているだけだ。
「・・・結衣子、あなたの望みは何?」
「アタシの望み?
今更言ったって、手遅れだしぃ」
「何なのよ、教えて」
「叶わない夢を願い続けるほど、辛いものはないわぁ。
全てを叶えたお姉ちゃんに、アタシの気持ちなんて、わからないわよ!」
「全て叶えた?
嘘よそれは。現に今叶っていないわ」
「お姉ちゃんにも感じてほしいの。
叶わない夢を追い続けたアタシの気持ちを。
だからアタシは涼馬くんを誘拐した。
だってお姉ちゃんにとって涼馬くんは、大切な存在だものねぇ!!」