人形
それを聞いた母さんは、静かに問いかけた。
「ねぇ結衣子、教えてちょうだい。
結衣子の願いはなんなの?」
「何度言えばわかるのぉ?
アタシの願いは叶わないのにぃ!」
「でも教えてちょうだい」
「・・・良いわ、教えてあげる。
アタシの願いはね、ケイタさんと結婚すること」
叔母さんの恋人、ケイタの存在は、僕も知っていた。
相思相愛って感じで、凄く仲が良かった。
ケイタさんは、間宮の経営する会社に勤めていて、叔母さんと会ったのだと言う。
真面目そうで、優しい、良い人だ。
「アタシ、ケイタが好きだったの。
ケイタもアタシを愛しているって言ってくれた。
だから結婚して、アタシはお姉ちゃんみたいな、幸せな家庭を築くことを夢見てた。
でも、パパとママは、アタシとケイタとの結婚に反対した。
お姉ちゃんの結婚は、凄く賛成していたのに。
アタシが話した途端、パパもママも即答で駄目よって。
アタシ、凄く辛くて、沢山泣いて、ケイタとも別れた。
ケイタは今、新しい家庭を築いている。
アタシとは違う、別の女と。
ケイタが幸せなら良いわ。
でも、どうしてアタシは幸せになれないの?
どうしてどうして、お姉ちゃんばかり幸せになれるの?」
母さんは、叔母さんの質問に答えることが出来なかった。
両親の結婚に、母さんの両親は凄く賛成していた。
だから妹の結婚も許してくれるはずだろうと、母さんは信じていたんだ。