人形
泉財閥に仕える執事たちが着れる、特注品の燕尾服を着ていた。
上着、ズボン、ネクタイは黒一色。
シャツは清潔感漂う白。
上着とシャツの間に七分袖のベストを着ており、色はグレー。
着こなせる人は少ない。
そんな燕尾服を着ているのだ。
彼は泉財閥に仕える執事だ。
でも、名前は知らない。
私、頭良いから、泉財閥に仕える人たちの名前と顔は全て一致しているの。
彼は、私の記憶の中にある数々の使用人たちのデータの中に名前は載っていない。
彼はぴくりとも動かずに景色を眺めている。
楽しいのかはわからない。
「お父様。
どうして私を呼ぼうと思ったの?」
「用があったからに決まっているだろう」
「それはそうなんだけどさ。
用って何かしら?」
「彼だよ、彼」