初恋至難
「ど、どうしたの……?」
抜け殻のようなお父さんにそっと声をかけた。
「すまん……、北海道に転勤になった。」
「「え……?」」
そういったのは私と茉実さんだった。
一也は隣で涼しい顔をしている。
「まじですか………」
「………この顔が嘘に見えるか?」
お父さんの顔は真っ青だ。
そして、不器用なお父さんに到底嘘が付けるとは思えない。
「あのさ、北海道に転勤することになったのはしょうがないとして、俺は行くの嫌だよ?せっかく受かった高校だし、友達と離れんのも嫌だし」
すっと横から一也が口を出した。
「あ、あたしも!」
自分では到底行けるはずの無かった高校に努力して受かることが出来たんだ。
せっかくの花の女子高生Lifeを無駄にしたくない。
「じゃあ二人で行こうよ、大地さん」
茉実さんがお父さんのジャケットをハンガーに掛けながら言った。
「え、でも、まだ高校生の二人が自炊していくなんて………」
お父さんは戸惑った顔をする。
それは私もだった。
……、一也と二人暮らしなんて、心臓が持たない!
私の心配はお父さんとズレてました。
「大丈夫大丈夫!ゆずだって大地さんと二人暮らししてた時はほとんどの家事やってたんでしょ?ゆずはしっかりしてるから大丈夫よ!力仕事は全部一也に任せればいいし!それに、大地さんと二人暮らし、楽しみだし……ね?」
茉実さんは大人の女性とは思えないほど歯を出してニッと笑った。
でもその笑顔は年を感じさせないほど素敵だった。
「んー、でもなぁ………」
さっきよりは悩んでるようだった。
多分、茉実さんの最後の一言に揺らいでるんだと思う。
二人が結婚してからわかったけど、お父さんは茉実さんにベタ惚れだ。
茉実さんもお父さんのこと好きだけど、倍くらいは好きだと思う。
「いーんじゃない?俺なら大丈夫だよ?」
「え?」
とっさに声がでてしまった。
“いいんじゃない”だって…………?
よくないでしょ!?
そして、ふと思い出した。
『死んでもゆずには欲情しない』
怒りとともに、虚しさがこみ上げてくる。
「わ、私もいいと思うよ?たまにはね二人でゆっくり過ごせばいーじゃん?ほら、ちょっと長いけど新婚旅行に行くと考えれば………」
私が意地を張って言った言葉にお父さんは満面の笑みを浮かべる。
その三日後、お父さんと茉実さんは北海道へと旅立った。