潮にのってきた彼女

+Ⅱ

それから数日、俺は夏帆の言葉やテレビからの映像に振り回されまくっていた。


まず、家にいて、居間で宿題をした。
居間では千歳さんの手によって、常時甲子園が広げられていた。


そして薄い地方紙を、数週間分読み漁った。
来る高校が本当に有名どころならば、掲載されている可能性もある。

しかし当ては外れた。
『真珠』の文字に目をとめることは何度かあったが、目当ての記事は見つからなかった。



そんな感じで数日が過ぎた。
宿題も半分ほど終わった頃、ばあちゃんに


「最近は妙にひきこもりやなあ。極端なことに」


と言われ、俺はやっと客観的に自分を見た。


未練がある、なんて言葉で表せるような感情だろうか。

食い入るようにテレビ画面を睨む。
無意識に、ブラウン管の中のバッターの癖なんかを見つけようとしている。

泥まみれの白球は何百万の視線を釘付けにする。
何百万のうちの1に入る。

独特のサイレンを聞くたび背筋が伸びる。
灼熱のマウンドに、暑そうだな、とは思わない。
試合日和だな、と思う。

野球がしたい、と思う。


……野球がしたい。


「野球がしたい」


小さくても、口に出したその言葉が、全てだった。
感情の全てを表していた。

野球がしたい。

一度思えばあっけなかった。
蛇口をひねれば水は溢れ出す。重力に逆らわない。落下する。

そういうものだった。そういう自然なことだった。野球がしたい。
野球がしたい。

野球がしたい。
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