潮にのってきた彼女
久しぶりに会ったアクアは至って普通だった。普通に見えた。

俺たちはまた「久しぶり」を言い合った。
会わなかった長い数日のことを、アクアは何も聞かなかった。

代わりにアクアは、真珠のことについて尋ねた。


「その話を、知っているひとがいたよ」

「本当に? それは、希望の持てる話だね」

「昔から言い伝えられているらしい。昔って言っても、何十年って単位だけど」

「やっぱり、島に隠されてるのかな」

「早く、見つかると」


そこまで言った時、今まで努めて考えないようにしていた疑問が、頭に浮かんでしまった。

もし、真珠が見つかったら。
そのあと、アクアは。


いきなり、皮膚の表面が冷たくなっていく気がした。
世界中に音がなくなって、波の音だけが、感覚として体に入ってくるようだった。

アクアは、俺の疑問を確かに捉えた。


「女王が、待ってるから」

「……うん」

「でも」


アクアは水平線に、その向こうに視線をやった。
綺麗な横顔を久しぶりに見た気がした。そうか、最近喋る時は、向かい合っていたから。


「真珠が見つかったとして、それを渡せば、女王は真珠を使うわ。……そうすると、女王の命は、願いと引き換えに」

「でも、永遠の若さとか、不老不死とかなら」

「代償の支払いが先ってことも、考えられるわ」


見たことのない、人魚の国の女王を思った。
玉座に腰をおろし、家来たちをかしずかせる、うろこを持った女王。
片手には鉾のような武器があるだろうか。赤い液体の入ったグラスがあるだろうか。

何しろ、そういうものの命さえも、なくなることはアクアに酷いダメージを与えるのであろうということを、俺はよくわかっていた。


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