潮にのってきた彼女
「真珠を見つけても、誰も幸せにはなれないわ。
それならいっそのこと、島に隠されたままでもいいのかもしれない、なんて、思ったことも、ある。なのに、なのにね」


アクアは瑠璃色の瞳に涙を溜め込んでいた。


「わたし、昨日また、仲間のところへ行ってきたの。女王は、真珠を見つけられなければシェルライン家を追放する、なんて言っているらしいの。
それを聞いたらやっぱり見つけなくちゃって。でも見つければ女王が。
代償の話をきっと女王は信じないし、もう、わたし、どうしたら」


瞳から透明な雫がついに溢れ出したのを見て、俺はアクアの体を引き寄せた。ひんやりと冷たい華奢な体は震えていた。


「わたし、それに、この島から離れるのもいや。本当は。翔瑚、わたし」

「アクア」


亜麻色の髪から伝わった海水が、じわりとシャツににじむ。
涙が浜に落ちて、丸いしみを作った。

俺は、どうして自分がアクアの言葉を遮ったのかわからなかった。


「見つかってから、考えたらいいよ」


遠くで海鳥が、無責任に返事をするように鳴いた。


「それからでも、遅くないと思うよ」


しばらくして、アクアはこくりと頷いた。
右手は首元の真珠を、左手は俺のシャツをつかんでいた。


海鳥は、やっぱり無責任に鳴いていた。






< 105 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop