潮にのってきた彼女
数日後、夏帆から連絡があった。
海へ行こう、と。

夏帆があげたメンバーは、俺、夏帆、朔乃、朔弥、慧の5人だった。夏帆が全員の名前をフルネームであげたので、ちょっと感動した。


『今日は曇ってるけど、明日は晴れるって!』

「そっか。じゃあ、3人、誘っとくよ」

『よろしくね』


夏帆はいつも通りのようでもあり、あの時のさっぱりした様子なようでもあった。

俺は受話器をおろしてすぐ、朔弥たちの家に電話をかけた。


『明日? 急だなあ。ちょっと待ってて』


朔弥は朔乃のところへ行ったらしかった。
そういえば夏帆の誘いはいつも急だ。

朔弥は30秒ぐらいで戻って来た。


『行けるよ。うん。朔乃も。へえ、夏帆ちゃんが。そっかそっか。よかったな。うん。じゃあ、明日』


今度は慧の家だった。最初にお母さんが出て、小学生のように「慧くんいますか」と尋ねると、すぐに慧は出てきた。


『夏帆ちゃんがねえ』


慧がへえ、と言ったポイントも、朔弥と同じくやっぱりそこだった。


「5人で、行こうって。この前ひいらぎ岬に行った時、この前のこと、謝られた」

『ふーん。何か、あったんだ』


慧はいつかと同じようなことを言った。おそらく電話の向こうでは、静かに片方の口角を持ち上げているのだろう。


「何か、あったんだと、思う」


慎重に、曖昧なことを、俺は言った。「何か」は自分でも把握できていなかったが、それがあったことに違いはないはずだった。


『鈍すぎて笑えるな』

「最近少しだけ自分でも、鈍いかもって思ってんだ」


ついに自覚症状か、と、慧は明るく笑って、電話をきった。





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