潮にのってきた彼女
「しょーご、真珠、あげなかったんだ」

「え?」


切り揃った前髪の下から、黒い瞳が見つめる。


「ながじいにもらったやつ。ハート形の。もらってたら、夏帆ちゃん、絶対つけてくるでしょ」

「ああ、うん。あげてない」


じゃあ誰にあげたの? とも、自分で持ってるの? とも、朔乃は言わなかった。


朔弥と慧と夏帆の3人は、腰まで海に浸かって笑い合っていた。
気温は昨日よりも上回っていて、海水も冷たそうではなかった。


「暑いな」

「うん。しょーご、宿題した?」

「半分ぐらい」

「へえ。それじゃあ、朔弥の5倍だ」


と、ということは、朔弥は終えた宿題の量は、全体の10分の1ということになる。
新学期直前になって、しかめっ面で宿題に取り組む朔弥を想像するとおかしくて、あははと笑った。


「あと、3週間ぐらいあるけど。たぶん、来週になっても、変わってないと思う」

「朔乃は?」

「あたしはほとんど。あと、わからないところ、慧に教えてもらう」

「朔弥より、慧のが兄ちゃんみたいだな」

「そう。朔弥はどっちかっていうと、弟みたい。慧はあたしのこと、妹って言うから、慧は3人兄弟の長男」

「はは、俺も、そう思う」


パラソルは太陽の角度とマッチして、上手に日陰をつくっていた。

水着を持ってはいるが本土の実家に置いてきてしまった俺は、海のきらめきから太陽の光を感じながら、遠い地の野球場を思ってしまった。
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