潮にのってきた彼女
「今みたいなの、よくあったよ。遠い目をして、ぼーっとしてるの。久しぶりに見た」

「そ、うなんだ。気づいてなかった」

「そういう時にね、しょーごは島の人じゃないんだなあ、とか思ってた。けど最近は、しょーごも島民ぽいの。島の一員。まるで、前から住んでたみたい」

「そっか。なんか、嬉しいな、それ」

「うん。島に、馴染んでる。しょーご、海似合うし。でもね、最初と同じとこもあるの」


朔乃はひざの前で両手を組んで、より縮こまった姿になった。


「しょーごは優しい。鈍いけど。朔弥と慧と4人で仲良くなってから、一回、朔弥も慧も休んだ日、あったでしょ」


思考を巡らせる。確かに、そんな日があった気がする。たぶん5月の下旬頃だ。


「あたし、うまく喋れないし、朝とか、ほとんど黙ってた。
しょーごは他の友達とお昼食べるかな、とか。でもあたし、他にあんまり仲良い子いないし、どうしよう、とか。思ってた。
でもしょーごはね、当然みたいにあたしの机来てくれた。あたし、喋らないから、絶対つまんないのに。しょーごは、にっこり笑って、いっぱい話しかけてくれた」


周りの喧騒が遠のいていく。波の音、さえも。パラソルの周りを、薄い膜の球体が包み込んでしまったように。

朔乃はひざに顔を埋めた。
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