潮にのってきた彼女
俺は体勢を戻し、その場に座った。
今の俺にパラソルは必要なかった。


ふい、と、目の前に、夏帆が現れた。


「落ち込んでる」

「え」

「だてに4ヶ月、彼女やってきたわけじゃないんだから」


夏帆は両手にラムネを持っていた。
片方を俺にわたすとぺたりとその場に座り込み、朔乃の方を見た。


「当ててあげようか」

「何を……」

「朔乃先輩の気持ちがわかった」


夏帆は俺の表情を確かめるとにやりと笑った。
少しだけ情けなくなったので、うなだれて顔を隠した。


「なんでみんな、わかるんだ」

「なんで翔瑚は、わかんないんだ」


夏帆はまた、にやりと笑った。可笑しそうだけど、馬鹿にした様子ではない。

夏帆は水着の上からタオル地の黄色いパーカーを羽織っていた。
ミディアムの髪が潮風になびく。


「あれ、髪切った?」

「すごい。今日中に気づくと思わなかった。慧先輩は、会った瞬間気づいたけど」

「……ごめん」

「いいの。だって、翔瑚だもん」

「それは、どういう」

「ね、ちょっとこっち来て」


夏帆は強引に俺の腕を引っ張ると、岩場の裏の波打ちぎわまで連れて来た。
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