潮にのってきた彼女
「このへんは、気づいてたかなって思うんだけど、私だって最初、そんなに翔瑚のことが好きなわけじゃなかった。都会から来た転校生がかっこいいって噂聞いて。外見とか、そういうオプションだけだった。

でも4ヶ月のうちに、私は翔瑚を好きにならずにはいられなかったよ。

優しくて鈍感で、友達思いで、私がわがまま言っても嫌な顔しないし。あんまり。
あと、走るのが速くて、泳ぎも得意。優柔不断なところはあるのに、勇気がある。
だてに4ヶ月、彼女やってきたわけじゃないんだから。

でも、好きだから別れて。
翔瑚に辛い顔とかさせたくないし。正直、自分でも甘えすぎだなあと思ってたし」

「夏帆」

「朔乃先輩が翔瑚のこと好きなのは、1ヶ月ぐらい前からわかってた。見ればわかるの。同じ、片思いだったからかなー」

「夏帆」

「私もばかだよね。軽い気持ちで告白なんてした時点で間違ってるけど。無理やりつきあわせてるって、気づいてからもずっと……」

「夏帆!」


夏帆はぴたりと動きを止めた。
無責任な海鳥の声が聞こえる。


大きく息を吸って、吐いた。
潮の香りが体を満たす。
足りないところを埋めるように。


「夏帆。こっち、向いて」


夏帆は、ゆっくりと体を90度だけ回転させた。
整った横顔が重なる。
口を引き結んで涙を溜めた姿は、夏帆の決心をよく表していた。
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