潮にのってきた彼女
波と砂の、境界線。
潮が満ちてくれば消えてしまう足跡も、しばらくの間は残っている。

夏帆は、自分の足跡を眺めていた。同じことを考えている気がしてならない。
夏帆は、波の中を踏んで帰って来て、言った。


「これが消えたら」


やっぱり、俺もだてに4ヶ月夏帆の彼氏をしてきたわけではなかったらしい。


「あたしたちは、友達」


涙目で笑って、夏帆は言った。


「ありがとう」


ごめん、とは言わない。言えない。この4ヶ月のことを、全て嘘にはしたくない。


「翔瑚先輩、になるのかー。変なの」

「それよりさ、なんで海に流そうと思ったんだ? その、髪」

「なんでだろうね。なんか、そうするしかないと思ったんだよね」


神のお告げかな、と夏帆は言った。飾り立てたような感じは全くなかった。素直な感じだけがあった。
やっぱり朔弥の言う通り、人間というものは海では素直に戻るものなのだろうか。


夏帆は「この前言ってた七海の話の続き、聞かない?」と言った。

俺はしばらく、七海という夏帆の友達の話を聞いていた。この前岬に言った時話していた内容の続きだ。
彼女はヨットの達人要次さんの2番目の孫娘で、船井先生のことが好きだそうだ。


船井先生が実は子持ちだったという衝撃の事実を明かしたところで、夏帆は砂浜を見て「消えた」と言った。

夏帆は微笑みながら立ち去った。
話の続きが気になったけれど、夏帆を呼び止めることは、できなかった。
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