潮にのってきた彼女
そのまま、岩場でじっとしていた。動きたくなかった。海という場所にいる。それだけで十分だった。


やがて、人が近づいてきた。
変に神妙な面持ちで隣に腰を下ろす。
たぶん、こいつにも事の全貌は見えているのだろう。


「翔瑚」


俺は、慧の方を向いた。
さぞ憂鬱そうな顔をしていたことだろう。
慧は軽く微笑んだ。


「夏帆ちゃん、めちゃめちゃ元気に朔弥と朔乃と遊んでる。すっきりした顔してた。元気のないのは朔乃の方だ」

「そっか。じゃあ、慧に謝らなきゃな」


慧は、驚いたように俺の顔を見た。
目を細める。裸眼なので、よく見えていないらしい。


「なんだ。お前が鈍感なのは、女の子にだけなのか」

「だといいけど」

「よかないだろ」


俺はどんな顔をすればいいかわからず、苦笑を浮かべた。


「わかってんなら、改めて言う必要もないかもしれないけどさ」


慧の言葉を待つ。次に出てくる言葉を、正しく予測できる自信があった。


「俺は朔乃が好きだ」


ほら、やっぱり。

慧は力強く言い、すぐに付け足した。


「ずっと、昔から」


ずっと、昔から。
それはきっと、長い長い時間だった。
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