潮にのってきた彼女
「別にお前に怒っちゃいない。さくを泣かすななんて、言えた立場じゃないし」


確かに、そう言われてしまうと困る。
だけどそれは、慧が言ってもいいはずのセリフだと思った。なぜだか。


「ましてや、幸せにしろよなんて。当然言わない。お前の気持ちが、さくに向いてるんじゃないって、わかってるしな」

「どこに、向いてると」

「そこまでわかんねえけど、さくの方じゃないことだけはわかる。俺にはそれで十分だし。あとは、お前の問題」


慧はあっさりと立ち上がり、俺を促した。
大人しくそれに続く。


「ただ俺が言いたかったのは」


近寄って来た海鳥をいとおしむように眺め、慧は呟いた。


「その問題を、きっちり解決しろってことだ。無駄にするなよ」


無駄にするなよ。
何を、かは、わかっていた。
それは俺が無駄にしていい程度の大きさや重さのものでないことも。


「わかった」


すぐさま答えを返す。強く心に決める。中途半端はやめなければ。

無駄にしちゃ駄目なんだ。
無駄にしていいものじゃないんだ。
思われた者としての最低限の責任なんだ。


心は決まった。
都合がいいと思われても仕方がないのかもしれない。

それでも俺は、伝えなくちゃならない。


潮にのってきた彼女に、自分の気持ちを。
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