潮にのってきた彼女
一瞬空に舞い上がるサンダル。
地上の俺を嘲笑うかのように、潮風にのって遠ざかってゆく。


「あっ……」


俺は断崖絶壁の上にいることも忘れ、サンダルだけを見て駆け出していた。

宙に手を伸ばす。
足は自然にそれを追う。
3歩目、足は岩を踏んでいなかった。

視界が大きく上下にずれる。
俺は、真っ逆さまになって、大岩から落ちた。




――空と海。
2色の世界。
いつも見ていた色は上下逆転していた。

コマ送りのように、景色が流れる。
境界線で、何かが光った。

――まるで、列車から見たのと同じ……



岩に打ち付ける波に消された小さな水音と共に、俺は海に飲み込まれた。





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