潮にのってきた彼女
目を覚ました時、車は家のガレージに停まっていた。

うーんと伸びをして、ごつんと思いきり両手を天井にぶつける。
慌てて両手をひっこめた時、懐かしい鳴き声がした。


「プラム!」


車を飛び出し、表へ出て、愛犬に向かって両手を広げる。
わん! と大きく鳴いて、プラムは躊躇もなしに飛び込んできた。

島へ行く前には、獣臭さも相当だと思っていたのに、入江高校の飼育小屋に比べれば、全然だ。

久しぶりに抱きしめたプラムは、大型犬と呼ぶのにふさわしい、立派な姿になっていた。

小雨の中でも高い体温は、太陽光に温まった海を思わせた。
あったかいやらくすぐったいやらで涙が出そうになる。


父さんが荷物を持ってきてくれたので、頭をわしゃわしゃと撫でてプラムと離れ、家に入った。



「おかえり」


玄関ポーチで出迎えてくれた母さんも、妹の結実も弟の進也も、みんな、変わっていなかった。

結実は小学5年生で、進也は3年生。
元気な盛りなのに、2人共肌が真っ白だ。いつか、遠出をして海にでも連れて行ってやろう、と思った。


元気だった? とか、学校はどうだった? とか、向こうは暑かった? とか、あたりさわりのない会話が続いた。とは言っても、俺は以前のような息苦しさを感じていなかった。

というか、以前の空気をそういう風に感じていたのだと気づいたのは、その時が初めてだった。そしてそれは、的確な表現だった。

ともあれ、今ではそれが感じられない。

時が解決してくれることは、世の中にかなりたくさん潜んでいるものなのだ。
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