潮にのってきた彼女
「あんた、自分の名前の由来知ってる?」

「昔、響きがよかったからって聞いた気がするけど」

「やだ、そんな適当につけるわけないじゃない。翔瑚、あんたは」


きっ、と眼差しが強くなる。
ノーメイクでもまつげが長く切れ長の母さんの目だと、かなりの迫力。


「翔けろ」

「え?」

「って意味。瑚はそれこそ響きで選んだけど。あれ? 画数でだったかな」

「翔けろ……」


自分の名前が表す言葉。


「『翔けぬけろ』って感じかな。うん。一生懸命、後ろを振り返らないで。
どんな道を通ってでもいいけれど、最後には目標地点に辿り着きますように。『翔け出せ』でもいいけどね。間違いを怖がらないで。そんな感じ」


どんな道を通ってでも。
最後には目標地点へ。
間違いを怖がらないで。


自分のそんな光景を想像すると、そこにはたくさんの道、選択肢があった。

一歩踏み出した自分は一生懸命翔けぬけようとし始めるが、目の前に障害が立ちふさがることもある。道に迷うこともある。逸れてしまうこともある。寄り道することもある。

それでも、最終的に辿り着ければ大丈夫。
そう思うと、更に道は広がって、すごくほっとできる。
寛大に見守られていると感じる。
目標地点を見失うこともないと思う。



母さんは、どうよって感じに微笑んでいた。
自分の母親をこんな風に思うのもどうかと思うけれど、まるで、少女のように。
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