潮にのってきた彼女
翌朝、進也は昨日いっていた愛好会のために早起きをし、俺が起きる頃に家を出た。
グローブはまだぴかぴかだった。


その日の昼は、久しぶりに会うこっちの友達と喋り通した。

仲のよかった4人の友達の半分に彼女ができていた。
ファーストフード店の一席で、やつらはひたすらのろけていた。


「翔瑚は相変わらず、女っ気なしか」

「田舎じゃ、相手もいねーんじゃねーの」


夏帆のことを話すと、全員が全員目を丸くした。もはや呆気にとられていた。


「可愛い子なんか、いんのかよ」


この一言にはむっときた。夏帆や朔乃の写真を見せてやりたかったが、ケータイは解約して島へ行っていたのでそれもできない。

一年の時に同じクラスだったK子ちゃんよりも夏帆や朔乃は可愛い、と、自分は思う、などという勝手極りない証言をすると、みんなは感心したような口調になった。

そんなものは人の好みによるし、K子ちゃんも夏帆も朔乃もみんなそれぞれに可愛いのだからそもそも比較したりなんてするものではないと当然わかりきってはいたが、遠い地の人間を、写真もなしにうまく説明する術を俺は知らなかった。


「でも翔瑚、変わったな。よく喋るようになったし」


島から帰ってきた俺について、みんなは口ぐちにそんな感想を述べた。

変わったな。明るくなった。無口だったよな、もっと。めつきが違う。気がする。

どうも悪い変化ではなさそうなのだ。


また帰ってきたら連絡しろよ、と言われ、みんなと別れた。
都会の高校生たちの背中を見送る俺の舌には、久々に食べたファーストフードの味が残っていた。
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